雑誌掲載記事 | |
BMWER(vol.27から引用)#1 | |
アクティブカーズ 整備日誌 | |
BMWの深い知識と確かな整備技術を持つアクティブカーズには、全国各地からBMWがやってくる。当コーナーでは、そんなアクティブカーズの日々の業務の一端をご紹介する。 | |
2.7仕様のS14エンジン製作は、いよいよ大詰め。今回はエンジン組み立てをお伝えする。 | |
エンジンの組み立ては、本来、真剣勝負。気持ちを集中させて挑む作業であり、また、各ショップでノウハウがあるから、あまり目にすることができない作業である。だが、アクティブカーズでは、オーナーに限り、組み立ての立ち会いが許されている。しかも、時にオーナーに手伝ってもらい作業を進める。自分のエンジンにそうしたカタチで関わることができるのは、良い記念になるだけでなく、エンジンに対する思い入れもよりいっそう強いものになる。そんなこともあって、エンジン組み立て時の立ち会いは、大変な好評をいただいているそうである。 少し脱線するが、小川氏がBMWディーラーに在籍していた現役当時は、トレーニングでエンジンの分解組立をやっていたそうである。今ではやらないらしいが、なんでも、一機のエンジンを10人で交代交代で作業するカタチだったそうだ。そうした際、小川氏は率先して前にでて、トレーナーの教えを受けたそうである。そうしたトレーニングを受けたエンジンは、E30系のほか、巨36M3などもやったのだという。そういう環境にあった当時を振り返り、メカとしては昔の方が面白かった、と小川氏はおっしやっていた。世代的には小川氏がぎりぎりで、後の世代は、いかにテスターを使いこなすか、ということに変わっているのである。エンジンのチューニングという趣味性の部分は、ディーラーでは関係ないことだから、そこは小川氏が自ら学んで身につけたものだが、エンジンの分解組み立てを当時S14でトレーニングできたことは、今も小川氏の財産となっている。 話をもどそう。エンジンの組み立てで小川氏が特に気をつかうのは、ピストンの組み込みと、パルタイの調整である。特にパルタイに関しては、チューニングの基本であり、きっちり合わせないことには、いくらいいエンジンを作っても本来の調子がでないことになってしまう。今回パルタイは104度の105度を考えている。通常、2.5であればエンジンにもよるが、大体104度の104度にするが、今回は2.7仕様。トルクが太くなることと、回転というところで、7500rpmとか、8000rpmまで回せないことはないが、それをやるとエンジンの寿命を縮めるため、上を7000rpmくらいに押さえたいのである。そうしたことから2.7仕様の持ち味であるトルクを生かし、3000rpmぐらいからフルにトルクが出始めるようなセッティングの方が乗りやすいし、速いのである。そして、とうぜん下のトルクがある方が運転は楽になる。104度の105度というパルタイのタイミングはそんなことを踏まえた結果である。それでも、7000rpmまではまだまだ回る感じであるから、回して楽しむというところでも十分に楽しめる、と小川氏は考えている。 組み立ては、1日かけて基本のショートエンジンが完成。組み立てを拝見して強く感じたのは、小川氏の妥協のない姿勢だった。それはもう、作業工程のそれこそひとつにこだわりを感じるものであった。細かいところをいえば、小川氏はエンジンの組み立てではグローブをつかわずに、素手ですべての作業をこなす。それはレンチをつかう場合にしろ、部品を組み込むにしろ、手の感触というものを大事にしているからである。エンジン組み立ては実に繊細で精緻なのである。また、何事にも手間を惜しまないということも小川氏ならではのこだわりだ。例えば、ボルトやナットをしめる際に、締めたものにマーカーを入れる。それは、単純な締め忘れを防ぐためである。他にも、ほんの−手間から大きな手間までいろいろあるが、それをすることでエンジンに良いことは、おっくうがらずにやるのである。それは、先ほどあげたパルタイに関してもそうだ。数値的には、始めに記したように104度の105度を考えていたワケだが、実の所それをぴったり合わせるのは簡単なことじゃない。世間では、パルタイはクランク角で1度くらいだったらいいと、よくいわれている。つまり、クランク角で1度ということは、カムでは0.5度ということで、それぐらいの誤差は許容範囲とみなされているのだ。だが、小川氏は百歩ゆずっても0.25度まで。実際、今回の2.7エンジンでは、最初に組んでばっとやってでたのは104.5度。目標は104〜105度と考えていたからその範囲におさまる誤差だ。でも小川氏はそこを詰めていく。そうして最終的には、104.1度と105度に合わせて作業を終えた。実際、0.5度くるったからといって、それが分かるのかというと感覚に優れた方でも分からないだろうし、セッティング上でも分かるものではない。でもチューニングは積み重ねでもあるから、妥協はしないのである。こうしたこだわりが、アクティブカーズ製のエンジンの評判に繋がって いるのである。 |
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「組み立てのひとつひとつの作業に小川氏のこだわりがある」 | |
1.作業室では既に作業が進んでおり、シリンダーヘッドはパルプが組み込まれ後は載せるだけの状態。燃焼室の容横などもチェック済みだ。2.一方の腰下はすでに3気筒ぶんのピストンが組み込まれており、最後のピストンを組み込むところだった。ここはキズを付けないよう神経を使うところ。ピストン、シリンダーには、初期馴染みのためのオイルを塗布している。3.規定のトルクでキャップを取り付ける。締めたボルトにはマーキングを付け作業を確実なものにする。4.腰下の回転部を点検かつ馴染ませるためクランクを回す小川氏。回転部のメタルにWPC加エを施しているため、コンロッドが一番横になる時こそやや抵抗を感じるがこの状態でスルスルと軽くまわる。普通はそうは回らない。5.タイミングチェーンなどのドライブ系は後から簡単には交換できないため一式新品を組み込んでいる。6.ストロークアップによる、干渉を避けるためシリンダーケース側だけでなく、オイルポンプにも逃げ加エを施している。7.ダイヤルゲージと全円分度器を使いピストントップを出すのは重要な作業。クランクプーリーに印はあるがそれはアテにしない。8.準備しておいたヘッドを組み込む。規定の順番で3回に分けてトルクをかけ、−回ゆるめてから再度締め込むことでガスケットを完全に圧著させるのがAC流。9.パルタイ調整を行うため、純正のカムギアにバーニア(長穴)加工を施している。10.続いてシリンダーヘッドのインターミディエイトハウジングを組み込む。11.リフターとシムをセットする。ちなみに、カムホルダーはWPC加工を実施。また、ハイカムを組むため、ハウジングには逃げ加エを施している。12&13.使用するカムはハイカムのため、組み込みにはスペシャルツールが必要となる。カムはシュリック製でIN292°、EX284°。そのカムは、カムホルダーにWPCをかけているため、こちらにはモリブデン加エを施している。14.パルタイの調整は、最も気をつかう大事な作業。僅かな誤差も小川氏は妥協しないで詰めていく。15.バルブクリアランスをみてシムを調整。専用のスペシャルツールが活躍するが、調整は一苦労。16.基本のところを組み終えてカタチとなった2.7のS14。取材後、間もなくクルマに搭載。ならし、セッティングをすませ、パワーチェックしたところ270ps、トルクは32.8kgを記録したというから何とも凄いエンジンである。 | |
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