雑誌掲載記事 | |
BMWER(vol.26から引用)#2 | |
ActiveCar's 整備日誌 | |
お伝えするのは、E30M3のS14エンジンを2.7化するエンジン製作の第2回目。分解洗浄を終えたベースエンジンは、何ら問題がないことから、加工工程へと入った。 | |
今回製作する2.7仕様のS14エンジンは、現車に載っているノーマルエンジンをストックとして保存するため、別途ベースエンジンを用意し、それを元に製作するカタチを取っている。そのため、用意したベースエンジンは、分解洗浄して中を確かめないことには、果たして加工工程に回せるものかどうか不確かなところがあった。というのも、それまで動いていたものでも、ベースとして使えないケースがあるのだ。典型的な例は、オーバーヒートでシリンダーヘッドが歪んでいるケースである。あるいは、オイル管理が悪く、例えばメタルがダメになっているものや、バルブがつくところのリフターの部分の相手側が極端に摩耗しているようなエンジン等も、後で弊害が出ることがあってあまりよろしくないそうである。で、本件のベースエンジンはと言えば、オーバーヒートの様子もなければ、ヘッドの歪みもなかった。状態としては思った以上で、問題なく加工工程に入ることができるエンジンであった。何と言ってもそのベースエンジンを用意したのは、他ならぬ小川氏。開けて見ないことには分からないと言いながらも、間違いの無い使えるエンジンではあったのだと思う。兎に角、こうして2.7仕様のエンジン製作は、滞りなく次のステップである加工工程へ入った。この加工工程は、まずシリンダーヘッドのポート加工やシリンダーブロックの逃げ加工をアクティブカーズで行った後、加工したものを外注のエンジン加工業者へ送り、そこでバルブのシートリングとガイドの打ち換え、ボーリング&ホーニング加工などを行う。取材班がアクティブカーズを訪ねた時は、社内で行う加工作業が終ったばかりのタイミングであった。早速、小川氏が腕を揮ったシリンダーヘッドを見せてもらった。ポートがピカピカに研磨されたそのシリンダーヘッドは、ノーマルとは見るからに違っていた。どこか神々しい雰囲気さえ漂っており、そこにはメカチューン独特の機能美があった¢ アクティブカーズの小川氏は、ご存知のようにBMWディラーの元工場長である。そのBMWディーラーでは、直接メカチューンを学ぶ機会はなかったワケで、どこでメカチューンの技術を身に付けたのかと言えば、その始まりは小川氏が10代、20代の頃まで遡る。若い頃はそれこそ、メーカー系の有名チューナーのガレージを訪ねたり、あるいは知り合いのチューニングをしている方から教えてもらったりしながら、当時はトヨタの2T-Gを相手に研鑽を積んだそうである。その後、今の愛機であるE30M3を手に入れてからは、そのS14を相手に技術に磨きをかけてきた。そのM3は2.3仕様を何度もやって、やれることはやり尽くし、現在は2.5仕様。そのM3に同乗したのをキッカケに、チューニングエンジンのパワー、楽しさに目覚め、チューニングの世界に足を踏み入れたE30M3ユーザーも少なくない。そんな風に人を魅了するエンジンを製作する小川氏に、素材としてのS14のシリンダーヘッドはどうなのか尋ねてみた。「量産エンジンとしては丁寧に作られていますよね。ポート形状もいいですし、燃焼室も容積合わせがされていますから、自分としては余計なことをしないで足りない部分をちょっと補うだけです」と小川氏。事実、ポートの加工に関しては、段付きの修正がメインであって、内部まで研磨しているものの、格別でかくする必要もなければ形状を変える必要もないそうである。確かに、ノーマルと比べると見た目には、インテークポートの入り口形状が結構変わっているものの、それはスロットルとの間に入るインシュレーターに合わせて段付き修正をした結果なのである。 −方、エキゾーストポートもガスケットやタコ足に合わせた段付き修正と、研磨を実施している。インテーク側と比べるとより鏡面に仕上げられているのは、排気の抜けを高めることで吸気効率の向上を狙ったためである。ちなみに、両ポートの段付き修正と研磨作業は、朝から晩までやっても3日の時間を要する。素材がアルミと言えど、リューターで最初に削ってから次に100番でそのキズを消し、100番のキズを200番で消すと言う風に徐々に番手をあげて最終的には1200番で磨き上げるのだから、手間のかかる作業なのである。では、その加工がどれ程パワーに影響するのかと問われれば、それだけで見れば微々たるものと言うほかないが、NAエンジンのメカチューンはこうした細かな積み重ねが大事なのだ。だから疎かにはできない。 燃焼室は、チューナーによっては、切削加工の痕を消しツルツルに磨き上げる方もいるが、容積合わせがされていることもあって、燃焼室には研磨などの加工は加えていない。社内でやるのは、最終的にビッグバルブを組んだ段階で容積をみて調整するのみである。 今後の予定では、部品を外注作業に出し、そこでの加工が終われば、いよいよ組み立て作業となる。滞りなく進展すれば、次回は組み立て作業をお伝えする事になるだろう。お楽しみに!! |
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1.分解洗浄してみるとベースエンジンの状態は上々、なんら問題なく加工工程へ。S14は、アルミ製のヘッドは兎も角、鋳鉄製のシリンダーブロックは元来丈夫。2.ストロークアップにともないコンロッドが干渉するため、シリダーブロックには逃げ加エを施している。3.これは別のS14の洗浄前のヘッドだが、燃焼室やポートの汚れは同じような状況で、エキゾーストポートの方はカーボンで真っ黒だったが、インテーク側はあまり汚れていなかった。4.ポート加工は、ピカピカに磨くことよりも段付きの修正が何より大事。5.燃焼室側からみた加工後のポート。インテーク側はさほど磨いてないが、エキゾースト側の方は鏡面のように仕上げられている。こうすることで、カーボンが付着するにしても綺麗に付着するのである。−方、燃焼室の方は研磨していないため切削の痕が伺える。6.エキゾースト側もガスケットやタコ足に合わせて段付きを修正している。7.エキゾーストポートは鏡のような映り込みが伺えるほどにツルツル。排気は熱く膨張しているため、抜けやすいのだが、より抵抗なく綺麗に出すために研磨加工されている。8.インテークポートはインシュレーターに合わせて段付き修正をしているのだが、随分以前より2.3用のインシュレーターは手に入らず、エボ用しか出てこないため、そのエボ用のインシュレーターに合わせている。ちなみに、インテークポートを鏡面のようにしないのはインジェクションのためで、これがキャブであればエキゾースト同様鏡面のようにするそうだ。現状でも触ると十分ツルツルなのだが……。9.これはS14の未加工のインテークポート。加工後の写真と比較すると結構違っているのが分かるはず。10.奥が2.3用のインシュレーターで、手前がエボ用。形状こそ同じだがエボ用の方が少し大きい。11.加工したインテークポートにエボ用インシュレーターを装着した写真。段差はほぼ解消されている。12.インシュレーターがエボ用となると当然スロットルの方も……。2.3のO/Hの際は段付き修正せずそのまま組み込まれる事も多いそうであるが、アクティブカーズでは、スロットルの方だけでも段付き修正をして組み込むそうだ。本件の場合は、段付き修正をすでに済ませ、専門業者でビッグスロットル加工の最中だった。13.小川氏の手で加工が施されたシリンダーヘッド。本取材の翌日にはブロックともに外注加工業者へと送られた。 | |
「Sl4は良くできたエンジン。余計なことをせず足りない部分だけ少し補う」 | |
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