雑誌掲載記事 | |
BMWER(vol.23から引用)#2 | |
1.これがクラックの入ったシリンダーヘッド。位置的には丁度5番のところ。カムを支持する4番側のジャーナル支持部から6番側のジャーナル支持部にかけてうっすら亀裂が入っている。2.小川氏が異変に気づいたのは、パルプクリアランスの音と、オイルフィラーキャップ裏の白濁だった。チョット来てくれただけでも必ずチェックをするという小川氏だからこそ、タイヤ交換でもトラブルを発見できた。ちなみに小川氏は、単にバルブクリアランスの音なのか、カムが減っているのか、音で判別できるそうだ。3.写真はクラックをアップにしたもの。亀裂が入っているのがハッキリ分かる。原因は、工業製品ゆえの製造上の問題で、走行距離に応じて経年劣化でクラックが入るのではないか、というのが小川氏の見解。4.カム山には一様にレコードのような異常な摩耗があった。M3のようなダイレクトプッシュの場合は、全体が丸く摩耗するが、ロッカーアーム式のカム山は凹状に減るので摩耗がよくわかる。5.カム山とあたるロッカーアームのチップ部分もレコード状の摩耗があった。6.小川氏がこの種のこのクラックをみたのは、今回で3例目。いずれもE30 320iの90年製造のシリンダーヘッドだったそうだが、稀な事例なのでご心配なく。7.シリンダーヘッドは新品だと高額なため、87年製造の状態のよい中古品を使用。カムやロッカーアームももちろん交換。8.ヘッドを載せ変えるということで、今回は軽く手を入れている。燃焼室の容量合わせやポートの段付き修正、パルプのすり合わせだけでも、エンジンフィールが向上するという。9.日常点検には意味があり、トラブルの芽を摘むことができるという小川氏。 | |
「小川氏の長い経験上、わずか3例の希有なトラブル」 | |
シリンダーヘッドにクラックが見つかったのは、90年式のE30 320i。走行距離は、10万kmを超えた車両である。クラックの発見は、オーナーがたまたまタイヤ交換で入庫したことがキッカケであった。そのオーナーは、前からお付き合いのある方。アクティブカーズを信頼してくれているせいか、入庫の際は、タイヤ交換のこと以外特に何も言わなかったのだそうだ。ところが小川氏は、クルマが入庫してすぐあることに気がついた。それは、バルブクリアランスの音。エンジン自体は、非常に調子が良いのであるが、その音が妙に大きく感じたのである。E30は、小川氏がその現役時代から無数に整備してきたクルマであり、隅々まで熟知したクルマ。そのエンジン本来の音は、音楽家の絶対音感のように、頭にしっかり刻み込まれているのだ。ましてや、以前から整備を任せてもらっているクルマである。いつもと違うことに直ぐ気づいたのだった。 小川氏は、その音から、バルブクリアランスが広がっているのは間違いなく、当然、カムも減り始めている、と判断した。それで、バルブクリアランスを取ろうと、ヘッドカバーを開けてみると、妙にカムが減っていたのだ。 話が前後してしまうが、異変はバルブクリアランスの音だけでなく、別の所にもあった。いつもの点検手順で、フィラーキャップを開けた所、内側が白く濁っていたのである。それは、エンジンオイルに水が入っているということである。音とオイルの白濁を確認したからこそヘッドカバーを開けることにした訳であるが、カム山に妙な減りがあったことで、ある疑いはさらに強まった。そうしてシリンダーヘッドを見ていくと、案の定、5番のところにクラックが見つかった。 オーナーに、最近クーラントの減りが早くないですか?と尋ねると、実はそうなんです、という返答。そこでいくつものピースが繋がった。つまりは、そのクラックから水が漏れ、エンジンオイルに混じることで、油膜が保持できなくなっていたのである。それで、カムも減り、バルブクリアランスの音も大きくなっていたのだ。 ちなみに、巷に流れる噂の中には、「M20のエンジンヘッドは弱い」という話がまことしやかに語られている。だが、小川氏が長年見てきた限りにおいては、M20が特に弱いという印象はないそうである。ただ、M20でも今回のクラックのようなケースは、90年式の320iの2000ccエンジンで、過去に2例見たことがあるそうだ。でも、それはディーラー勤務時代を含めた中での話。だから冒頭の紹介でも珍しいトラブルと記述した。90年式の320iのオーナーは、心配されるかもしれないが、極めて少ない事例だからご心配なきように。 話を戻そう。今回は、たまたまのタイヤ交換で入庫し、対処できたからよかったが、仮にそのままスルーしていたとするとチョット恐い。オイルが潤滑剤の役目を果たさなくなれば、オーバーヒートが起きるのは必至。しかも、それが高速道路上で起きると止まりたくても止まれないこともある。その結果、完全にオーバーヒートしデトネーションを起こすこともあるのである。そうなれば、そのエンジンは歪んでもう使い物にならない。今回、シリンダーヘッドやカムなどの交換で済んだのは、不幸中の幸いだったのである。 今回の話で思うのは、日常点検の大切さ。プロの行う緻密な点検は、真似しようにも無理だが、オイルや水の量や色を見ることくらいなら、やろうと思えば誰にでもできるはず。クルマのことは一切合切、プロにお任せという方も少なくないと思うが、日常点検は、それなりに意味のあることなのである。愛機と長く付き合っていきたいというBMWER諸兄は、日常点検の習慣をお持ちいただきたい。 |
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