雑誌掲載記事 | ||
BMWER(vol.15から引用)#1 | ||
E30M3エンジンコンバートpart3 | ||
ZF製の4HP−22は当時318から535まで、シングルカムエンジンンで幅広く使用されていたオートマチックトランスミッション。750では4HP−24という強化されたものが使われていた。 |
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アクティブカーズでは、E30M3のS14をE30 325iのAT仕様のM20にコンバートするというちょっとユニークな車両を製作している。現在、車両製作の方はほぼ完了し、あとは細かい所の仕上げと車検取得を残すのみというところまで来た。今回、完成した姿をご紹介できなくはなかったが、前号のバランスの問題同様、もうひとつ確かめておきたいことがあった。それはミッションの問題。というのも、載せ換えるM20は所謂ノーマルエンジンとは違っている。このM20は、アクティブカーズでフルチューンされたもので、不用意にアクセルを踏もうものなら、ホイールスピンをするほどのポテンシャルを秘めているのだ。問題は、そんなパワフルなエンジンに、325iのオートマチックトランスミッションで大丈夫なのか?ということ。E30の現役時代を経験している方ならご存知かと思うが、そのZF製の4HP−22というミッションは、当時何かと言われたオートマチックトランスミッションなのだ。とは言え、裏付けもなく行き当たりばったりで作業を進めることは、アクティブカーズでは絶対にないことである。4HP−22を使うというからには、使えるという確信が必ずあったはずなのだ。そのところを小川代表に聞いてみた。「よく皆さんは、4HP-22のことをガラスのミッションなどと言うけれど、そうそうは壊れない。その昔、オートマのミッションが流行った時に、スタンドでもATF交換をしてたんですけど、それまで整備してない車両なんかをいきなりキレイにするものだから、新しいオイルの洗浄効果で、溜まっていた汚れが取れて目詰まりを起こして滑ちゃったということはよくありました。それが−気に広がりましたよね。滑ったとか、壊れたとか。話が結構ひとり歩きしちゃいましたよね。でも、確かに自分が現役の時にはミッション交換は多かった。ZFに限らずツインカムになってからのジャトコも多かった。けど、あれから色々分かってきてATFのメンテナンスをきちんとするようになったりとか、乗り方を知ってきたりとかしているので、最近ウチではオートマチックトランスミッションを交換することなんて殆どありません。3年前に−台交換しましたけれど、それは20数万km走ったクルマでした。それくらいですよ。今、ここまで来ちゃうと進化もしているんです。分からないところで、公表はされていませんけれど、今あるリビルトなんかは進化していると思いますね。ただ中には、−度も換えてないお客様方もいらっしゃる。E36のジャトコで45万kmという方もいます」と小川代表。ミッションの耐久性に関する話はまだまだ続く。 「この4HP-22というミッションは、E34の535iでも使われています。ですから、私はそれなりの耐久性は持っていると考えています。でもメンテは必要です。そのメンテは何かというと、3万km毎のATF交換とフィルター交換です。それをきちんとやっていいただく。ウチではただ単にやみくもにオイル交換するわけではありません。やってくれと言われて、すぐやるのではなくて、必ず冷めた状態からの試運転とオイルの汚れ具合を見た上で、やっていいものか悪いものかを判断します。これはやらないほうが良いと判断したケースは、残念ながらやっても改善はしません。ミッションがおかしくなってからオイル交換したり、フィルター交換しても遅いのです。調子のいい時にやっておくからこそいい状態を保てる訳ですし、それが予防整備というものなのです。あとは普段の乗り方がとても大事だと私は考えています。特に冷えている時の乗り方ですね。 メンテナンスと気遣いがミッションを長持ちさせる 近頃はメンテフリー流行ですが、日本車に乗るような感覚でエンジンが冷えている時に始動してすぐバンと踏んで走っちゃうのはダメです。かと言ってながながと暖気をしてもらっても困ります。暖機運転は最大やっても2分。それ以上やっても無駄に燃料を食わせるだけで環境にも良くありません。何よりエンジンにカーボンがたまって、先々不調の原因にもなりかねませんから。通常私のクルマは真冬でも1分しか暖気はしません。で、シフトをドライブに入れて走り出したら、オートマチックトランスミッションの場合は、水温があがるまで2000回転くらいまでで走ってもらえればいいのです。マニュアルトランスミッションなら2500回転くらいでしょうか。そうして水温計が青を超えてちょっと行ったらもう温間状態です。で、水温が真ん中にきた時には完全な温間状態ですから、そこからは幾ら踏んでもかまいません。ちょっとした気使いなんですけど、こうやって乗るとミッションも長持ちしますし、クルマも持つんです。クルマを止めたままでの暖気は、オートマチックトランスミッションに良くないとは言いませんが、エンジンは温まっていても、動いていないミッションやデフはまだ冷えていたりする訳です。それなのに、エンジンが温まったと思ってバッと踏まれちゃう、それがよくないんです。ミッション、デフに良くないだけじゃなくて、クルマ全体にとって良くない。走りながらの暖気は、自ら動くことで暖まりますから、負担も少ないのです。機械というのは冷間に合わせているのではなくて、温間状態で金属が膨張した時に合うように作られていますから。そこに無理なく早く近づけるということです。人間の身体に例えると、エンジンをかけて直ぐ全開にするのは、朝起きた直後に全力で走るようなものです。でも準備運動をして身体を解し、暖めながら徐々に走る。そうすることで膝などの故障も防げますよね。それと同じですよ。ちょっとしたことが、5万km、10万kmとなった時にその差が効いてくると思いますね。ただ、これで万全かと言うとそうではないと思います。中にはそうやって使っていても、壊れるものは壊れちゃう。基本、工業製品ですから。その事は必ず説明はします。確かに精密に作ってはいるんだけれど、たまたま材料の質が悪かったりとか、スが入っていてそこから破損する場合もありますから。なので絶対とは言えません。このクルマのオーナーさんには、新しいリビルト品に交換してもらっています。でも何年かしたら滑ることがあるかも知れませんよ、という説明は事前にさせてもらいました。お客さんには、「パワーのあるエンジンなんだから、ミッションは消耗品なんだな」ってご理解いただいています。実際にどれくらい持つかは、乗り方次篇ですね。エンジンをかけて直ぐにバンって踏むような乗り方をしていれば、滑ってくることもあるでしょうけど、それほどパワーをかけなけ れば、普通に乗れると思います。初めに言いましたけれど、このミッションは535iにも使われているもので、極端に耐久性が低いわけではありませんから大丈夫だと思うんですけどね。」 アクティブカーズがすることには裏付けや何かの理由があるだろうということから、発した問いの答えは思い掛ないほど膨らんだカタチで返ってきた。その内容は、エンジンコンバート中のM3だけの話にとどまらないことから、その話の全容を掲載してみた。さて、次号ではいよいよ完成した車両と、車両製作の最後の詰めとして小川代表が行うという総点検について、お伝えしたいと考えている。請うご期待。 |
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1.取材当日はミッションを載せる作業の真っ最中。足まわりの作業は終わっており、完成は間もなく。 2.小川代表が4HP−22でもいけると判断した理由のひとつは535でも使われていたこと。ミッション本体は同じで、車重に応じてコンバーターが違うだけなので、それなりの耐久性はあるだろうとの判断。 3.中古では滑るかもしれないということで、今回使う4HP-22はリビルト品。今のリビルトは当時のモノと違い、わからないところで多少なりとも進化しているようだ。 4.オートマとマニュアルではミッション本体の大きさ(長さ)が異なり、プロペラシャフトの長さもまるで違うため、駆動系は325のものをすべて移植する。 |
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