雑誌掲載記事 | |
BMWER(vol.11から引用)#1 | |
トラブル車両整備日記 アクティブカーズの小川代表は、BMW正規ディーラーの元工場長。 E30系、とくにM3のイメージが強いアクティブカーズであるが、 小川氏の整備の腕をたよりに、調子を崩したBMWが新旧を問わずやってくる。 このページでは、特にやっかいなトラブルを抱えた車両の問題解決の顛末をご紹介する。 |
|
今回のクランケ 車両:E66 745i 症状:アイドル不調 |
|
アクティブカーズはコンピュータ診断機も完備。今のクルマは診断機能があるため、整備をするのには都合がいい。E66の診断結果は、4番点火不良。 | |
点火、燃圧、インジェクターのトラブルシュートの課程で、ファイバースコープを使って燃焼室を点検した。エンジンに手をつける前に点検できることはしておくのだ。 | |
制御系に問題がないことがわかり、コンプレッション測定で圧縮漏れが確認できたため、ヘッドカバーを外すことに。 すると一目瞭然、カムの山の部分に問題があることが発覚。 |
|
アクティブカーズでは、いきなり分解することはまずない。しっかりとした点検を行ない、裏付けをとったのちに初めて手を付ける。写真は問題のカムを外している所だ。 | |
アイドリングで微妙なフレを起こし、オーナーを悩ませていたのは、このカムが原因だった。下は異常がみとめられた問題のカムで、上は新しく組み込む新品のカムだ。 | |
問題が見つかったカムの山は剥がれるかのように破損していた。本来は左側の新品のように滑らかなのが本当。こうした事例は報告されておらず初めてのケースだ。 | |
カムの相手側のローラーロッカーアームにもカムの破損の影響を受けて、ローラー部分にわずかだが傷が認められた。上が新品で、下が傷のあるロッカーアームだ。 | |
カムの交換は当然だが、関連するロッカーアームとHVAも新品に交換する。それらがトラブルを引き起こしては元も子もない。上側が新品のロッカーアームとHVAだ。 | |
不調の究明は基本部分の点検から始まる | |
アクティブカーズの小川代表は、「私どもは整備屋で、お客さまのクルマの調子を良くすることが仕事。何も特別なことはしていません。当たり前のことを、当たり前にやっているだけです」とおっしゃる。その一方で、アクティブカーズには、BMWが全国各地からやってくる。事実、取材時には、地元山梨や関東圏はもちろんのこと、遠くは鹿児島ナンバーを付けた車柄もあった。その多くはE30系だが、他店ではどうにもならなくて、最後の頼みの綱として、やってくる車柄が少なくない。 本企画の第一回目としてご紹介するケースはE66 745。アイドリング時に原因不明の不調を抱えて、持ち込まれた車柄だ。小川代表がオーナーから聞いた話によると、当初は軽く考えていたらしい。というのも、不調(わずかな振れ)なのはアイドリング域だけで、特別異音がするわけでもなく、外見からはまったく分からない。しかも3000rpmを超えればいたってふつうに回り、高速道路ではすこぶる調子がよくグイグイ加速する。それで、とあるショップでプラグを交換したり、イグニッションコイルを交換したりしたが効果なし。じゃあ添加剤を入れてみようか、ということで入れると少しは良くなったが、相変わらずアイドル回転域では、微妙な振れがあってエンジンチェックランプが点灯していたそうだ。どうにも直らず持ち込まれたのが、アクティブカーズであった。 オーナーの話を聞いた小川代表は、まずその場で、いつものようにマフラー出口に手のひらを近づけて、排圧をチェックしてみたそうだ。するとどうも1気筒おかしいことがわかったという。この方法は、長年の経験のたまもので、ノーマルカムの車輌であれば、調子の良い悪い、1気筒が死んでる、2気筒が死んでるということが、排気の脈動から分かるという。そこで一先ずコンピュータ診断にかけてみたそうだ。すると案の定4番の気筒に点火不良という結果がでた。加えてサウンドスコープで音を聞くと確かに4番のインジェクターが止っている。ただ、コンピュータ診断の点火不良が意味するところは多岐にわたっている。そこでトラブルシュートをすすめた。 「トラブルを解決するには、大丈夫だろうは通用しません。当たり前のものを正確に、当たり前に制御されていることを確認することが重要です」と小川代表。そうして、まずは点火、次に燃圧と、消去法でどんどん追い込んでゆく。インジェクターもコンピュータ上のデューティ比で作動を確認するだけでなく、実際に噴射しているか、取り出して目視で確認した。以上の結果、制御系には問題ないと判断。となると問題はエンジンの中身ということになるが、そこに手を付ける前に、コンプレッションを測ることにした。この作業は、エンジンがバルブトロニックということで計測に手間と時間がかかるため、ディーラーに依頼した。その結果、テスターでは4番の圧縮がないとでた。ただ、3000rpm以上では問題なく普通に回ることから、まったくのゼロでないことは推測はできたが、正確なところを知るためにマニュアル式テスターで再度調べてもらったそうだ。すると、問題の4番は通常の半分程度の数値とでた。だからアイドル域は不調でも、上の領域で普通に走る理由が判明した。同時に4番が圧縮が抜けを起こしているのは確実で、問題はエンジンの中にあることが決定的となった。 この時点で、小川代表が予測したのは、バルブクリアランスを調整するHVA(油圧式バルブリフター)が故障してバルブが通常よりも開き気味になっているのではないかということだった。少し具体的な話が出来る状況になったことから、オーナーに報告をし、ヘッドカバーを開けてみることになった。で、ヘッドカバーを開けて、一通り見ていったところ、排気側のカムシャフトに異常を発見。本来は滑らかな山になっているはずの一部が破損し、無くなっていた。アイドル不調の原因はこれだった。 興味深いのは、カムの山の部分が減っているのにもかかわらず、なぜ圧縮がなくなったのかということ。 小川代表は最初それが不思議だったそうだ。「山がへっていればただ開かないだけで、圧縮漏れの原因になるのかな?ということはすごく考えました」と小川代表。考えてたどり着いたのは、簡単に言えばHVAがジャマをしたのではないかということ。本来はカムの山がロッカーアームを押してゆくが、破損して押せない。そこのところでクリアランスが広がるため、HVAがそのクリアランスを埋めるために伸びたのだ(だから音もでなかった)。で、こんどバルブが閉まる時にHVAが伸びっばなしなので、バルブが開いている状態が起こり圧縮が落ちてしまった、という風に判断した。 問題が明らかになればあとは整備をするのみ。破損しているカムは無論、その先のローラーロッカーアームにも傷が入っているため交換。HVAに関しても、こんどそれがトラブルの元になっては元も子もないので、関連部品は新品を使ったそうだ。そうして組み直したエンジンは、本来の調子を取り戻した。 問題を引き起こしたカムの破損原因は、工業製品ゆえのたまたまの製品不良だろうというのが小川代表の考えだ。もし乗り方が悪ければ、他に影響が出ているはずだが、そういう影響はまるでなかった。加えてディーラーメカニックのネットワークで確認しても、今回のようなトラブルは報告例がなく、初めてのケースであった。 アクティブカーズがこうした整備に対応できるのは、BMWディーラーで整備の腕を磨き、工場長を務めた小川代表がいるからこそである。小川代表自身もこういう仕事が好きで、新しいクルマほどやりたいという。E30M3を始めとするちょい旧のBMW専門店であるアクティブカーズではあるが、こうした新しいクルマで学んだことは、旧いBMWにもフィードバックされていく。アクティブカーズの強みは、ディーラー時代に当時現役のE30M3などを整備し、本来の姿を熟知していることもそうだが、旧いクルマだけに踏みとどまらず、新しいクルマからどん欲に学び、自らの技術を磨いているところにある。次回は、どんなクルマが入ってくるだろうか。 |
|
雑誌掲載記事メニューへ | ←BACK NEXT→ |