雑誌掲載記事 | ||
BMWER(vol.8から引用)#1 | ||
エムスリーの駆け込み寺 派手で目をひくものはないかもしれない。 だが、小川氏が整備したクルマは、驚くほど新車に近いポテンシャルにまで引き上げられている。 だがそれはオーナーにしか分からない無上の歓びであるかもしれない。 しかし、だからこそ愛車に長く乗り続けていきたいオーナーが、甲府を訪れるのである。 |
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自らもE30M3オーナーだからこそ分かること アクティブカーズの小川代表は、E30M3乗りである。そのラックスシルバーの小川さんのM3は、取材で訪れるたびに、どこかしら仕様変更がなされていた。それはE30M3乗りならではの視点で、そしてE30M3のらしさを失わずギリギリのラインを踏み外さない、なんとも“通”向けのチューニングだった。 全国のE30M3が入庫するアクティブカーズで施されるチューニングのメニューは、そのほとんどが小川さんの愛車で実際に試された後、初めてユーザーのE30M3に施されることになる。いわば、小川さんのE30M3は、テストベッドであると同時にショップのデモカー的存在であるというわけだ。そして、小川さんも E30M3をこよなく愛するひとりのオーナーでもある。 実は、わたしのM3の初期化も、小川さんの手によるものだ。取材で幾度かアクティブカーズを訪ねたことはあったが、そのときまだわたしはE30M3のオーナーではなかった。2001年、BMW専門誌(このBMWERではない)を立ち上げ、日本全国のBMWショップやオーナーを訪ねていたわたしは、当時「一生愛せるBMW」を探していた。そして、個人的な思い入れと、数多くの年配のオーナー諸氏とお会いして2005年に決めたのが、左の写真のリフトにのっているE30M3だった。E30M3オーナーになるに際して背中を押してくれたのは、何を隠そうアクティブカーズの存在だった。関東近辺でこの先、E30M3を維持していくのに長くお付き合いできるショップ、というよりメカニック、それが小川さんだったのだ。 真冬の寒い時期に、早朝から深夜まで、1週間と いう時間を、小川さんは完全に取材のためだけに割いてくれ、わたしのE30M3を仕上げてくれた。わたしは近くのビジネスホテルに泊まり、一部始終をカメラに収め、初期化の取材をすることができた。1週間、寝食の「寝」以外をほぼ小川さんと共にしたが、取材の最終日、初期化を終えたE30M3を受け取った夜のことをいまでも覚えている。小川さんが初めて自分のE30M3が納車された時のことをそのとき語ってくれた。 「うれしくてうれしくてね、その日はエムスリーのシートに寝ちゃいましたよ」。 その晩、E30M3のキーを受け取り、甲府から横浜までの深夜のドライブをいまでも覚えている。わたしもうれしくて仕方がなく、そのまま朝まで走っていたいと思ったものだ。小川さんはそんなわたしの気持ちを察して、自分がE30M3オーナーになった日のエピソードを話してくれたのだろう。 小川さんは、BMWディーラーメカニック、そして工場長を経験して独立、現在に至る。E30M3は当時、仕事で接しており、常々その素晴らしさを感じたという。DTMで活躍しているE30M3も、同時代に見ている世代。いわばイメージとしての憧れと、実地でメカニックとしてその手で触れ、惚れ込んでしまったE30M3ファナティストである。自分の手元にE30M3が届いたとき、その興奮はいちE30M3のファンとしてのものだったに違いない。そしてそのときの興奮をいまなお持ち続け、自分の愛車に手を加えて進化させている姿には、脱帽させられる。情熱を維持、持続させることは並大抵のことではない。しかも、それが小川さんの場合は仕事とも直結しているのでなおさらだ。 ここでアクティブカーズについて説明を加えておきたい。アクティブカーズは、ユーザーの絶対数からすると決して整備工場を営むには有利な場所とはいえない甲府にある。しかし、それでもBMW専門の整備工場として、なかでもE30をはじめとするE28やE24などの80年代のBMWのいわば駆け込み寺としていまや日本全国のBMWオーナーに知られるまでの存在になった。アクティブカーズは派手な宣伝を打つわけでもなく、刹那的なデモカーで誌面に登場するわけでもない。モットーの「基本は整備」を地でいった結果、現在がある。 アクティブカーズは、「基本は整備」をまさしく形に したような、見た目はそのまま整備工場である。このモットーを、当たり前と思う人もいるだろう。しかし、E30M3といったちょっと古めのBMWの場合、なかなかそれが当たり前とはいかないのである。というのも、新車当時のコンディションを熟知している人でなければ、整備の基本の基準がどこにあるのか分からないからだ。小川さんはその点、当時ディーラーで何台も整備していた実績があり、まずはその新車当時のコンディションを取り戻すというアプローチからクルマに接するようにしている。これは新車からずっと乗り続けているオーナーでも、そして中古で購入して入庫してきたオーナーでも同じである。長年乗り続けているオーナーは、忘れていた新車当時の乗り味を再び体感することで改めてE30M3のよさを再認識し、さらに乗り続けていこうという気になるだろう。そして中古で購入したオーナーは、度重なるマイナートラブルに嫌気がさして中途でE30M3から降りなくて済むように、という配慮が込められている。好みに応じたチューニングはそれから、というのがアクティブカーズの基本姿勢なのだ。 もちろんチューニングにも定評がある。その証に、アクティブカーズでサポートしているE30M3がBMWカップNlクラスで昨年、一昨年と優勝している。 アクティブカーズに入庫しているクルマを見ると、意外にも他府県ナンバーが目立つ。E30M3をはじめとして、E30各モデル、それに80年台のBMWのオーナーが、愛車と長く付き合うために「整備」してもらっているのだ。そして大半のユーザーが、自ら愛車を引き取りに来て、自走で長距離を走って帰るという。愛車を購入したあの日と同じく、完調した愛車のステアリングを握るのが、たのしくて仕方ないからだろう。 |
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「基本はまず整備です。まず新車当時の性能に戻すことから初めて、それからチューニングすることをオススメしています。」 | ||
S14エンジンはこれまで数えきれないほど組んできた。この長年の経験に勝るものはない。そして小川氏がメインテナンスした車輌は、次に手を入れるが扱いやすいように仕上げてある。それはメカニックとしての矜恃だ。 | ||
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